母は目や耳のいい人でした。
グループホームに入る以前、80歳近くなった頃でも、眼鏡をかけずに新聞を読んでいました。
眼鏡は持ってはいましたが。
耳が遠いということを感じたこともほとんどありませんでした。
認知機能の低下で、話の内容が分からないとか、関心が向かないから聞こうとしていないとか、そういうことはありましたが。
そんな母が認知症になって悩まされていたのが、幻聴でした。
「第38回 認知症介護 独り言が増えてきた その1」でも触れましたが、男の人が話しかけてきたりののしったりするのが聞こえるようで、それに答えたり、その声を追い払おうとしているような独り言が増えていました。
なかでも多かったのが「ババアはおるか」です。
知らない男に追いかけられている恐怖を味わっているかのようでした。
知らない男かどうかもはっきりしません。
もしかするとお世話になっていたデイサービスの所長さんかもしれません。
もちろん所長さんが「ババアはおるか」とは言いません。
その頃は母の調子が悪くなってきており、デイサービスに行く回数を増やしていました。
それが母にとっては負担になっていたかもしれないのです。
だから所長さんが迎えに来てくれるのと、知らない男が「ババアはおるか」と迫ってくるのが重なって感じられたのかもしれません。
カーテンを閉めたまま、こっそりと窓の外をのぞいていることも何度かありましたから。
2015年1月のメモです。
2015年1月○日
・昨晩、おばあちゃんいわく、「トイレに入っていたらね。外で『ババアはおるか』という男の人の声がした」と。
それで外を見てきてほしいというので、玄関を開けて「誰もいなかったよ」と言っておいた。
「所長だ」と言ったとも言っていたので、デイサービス「○○○○」の所長さんが迎えに来てくれていた記憶がよみがえってきているのだろう。
それほどプレッシャーだったのかもしれない。
おそらくしょっちゅう幻聴が聞こえているのだろうと思う。
2018年5月23日の朝日新聞に「『徘徊』使いません 大府市でも」という記事がありました。
愛知県大府市が、行政文書や広報で「徘徊」を「一人歩き」や「一人歩き中に道に迷う」というように言い換えることを決めた、という記事です。
認知症の人が危険な存在という認知症への誤解、それを防ぐことにつながるといいですね。
すでに兵庫県や東京都国立市、福岡県大牟田市なども「徘徊」の使用を取りやめているのだそうです。