認知症の母がグループホームに入る以前、「自宅での介護はそろそろ限界だ」と私が感じた大きな理由は、母が金属製のふたのついたゴミ箱のそのふたを、重みのある手鏡でたたいて、夜中にまでカンカン、カンカンと音を出したり、激しい独り言を言ったりして、家族の睡眠に影響しだしたことでした。
もうひとつ、音で困ったことがありました。
それは、機嫌が悪くイライラするのか、母が自分の部屋の障子をぴしゃりと閉めるときに、ぴしゃりどころか、バンッと激しい音を立てて、勢いよく閉めることでした。
「私は怒っているぞ」と周囲にアピールするかのようなその音は、私たち家族を、そのたびにドキッとさせました。
そこで私は、ホームセンターに行き、「戸あたり消音テープ」を買って来て、母の部屋の障子に貼りました。
「戸あたり消音テープ」の存在は、それまで意識したこともありませんでしたが、「発泡合成ゴム製の消音テープが、家中に響く戸あたり音を貼るだけで簡単解決」(ニトムズの「クッションソフトテープ」の宣伝文句)などと売り出しています。
ニトムズの製品を特に売り込もうというわけではありませんが、「クッションソフトテープ」以外にも、「戸あたり消音テープ」、「ふすま戸あたりテープ」、「家具用戸あたりテープ」など、類似の製品を売り出しています。
この「消音テープ」を貼ることで、その音に関してはそれなりに解決しました。
不機嫌になった母が、障子をバンッと閉めるのに、パンッとしか音がしない。母が拍子抜けしているような姿を想像し、私は不謹慎と思いながらも、笑いがこみあげてきました。
母がグループホームに入って4カ月ほどが経過した2015年11月、グループホームに面会に行くと、母の部屋のドアには「消音テープ」が貼ってありました。
母はここでも同じようにドアをバタンと不機嫌そうに激しく閉めて、介護スタッフの方たちを困らせたに違いありません。
スタッフの方からは「指をはさむといけないので」という説明でしたが。それとは別に話があったのは、「ドアを取り外しましょうか」という提案でした。
グループホームの母の部屋のトイレのドアは、手前に引くタイプで、母はそれがずいぶん使いにくそうだったらしいのです。
私はその提案に従い、ドアを外してもらいました。
そして、ドアの代わりに、長めの暖簾をつけてもらいました。
2015年11月のメモです。
2015年11月○日
・今日は私一人でグループホーム「S」に面会に行ってきた。
週に一度は面会に行っている。
これまで入所してから言っていなかったが、今日は「腰が痛い」と母は言っていた。
トイレが手前に引くタイプのドアで、転んだか、転びそうになったか、壁との間に挟まったのかもしれないが、「ドアを外して、長い暖簾にしましょうか」と提案があったので、そうしてもらうことにした。
部屋への入り口の扉にクッションが貼ってあった。
家でしていたように、バタンと勢いよく閉めているからかもしれない。
介護スタッフの方は、指を挟むといけないから、と言ってはいたが。
あれこれ母と話した中で、姉(母にとっては長女)のことも少し話題にしたが、姉の名前を出してもそれが誰かよく分からない様子だった。