第73回 認知症介護 口腔ケアが大事だが

 母がグループホームに入る1か月ほど前のことです。

 母の入れ歯が壊れました。

 入れ歯がないと物が食べられません。

 「入れ歯を新しく作ってもらうにも、それなりに日数がかかるし、これは困ったことになったぞ」と思いながら歯医者に行きました。

 歯医者に行ってみると、実際新しい入れ歯を作るには数回の通院が必要ということでしたが、それだけではなく、歯の間に食べかすがたくさんついているので、それをきれいにするのも大事だということが分かりました。

 とはいえ、母に付き添って朝晩一緒に歯磨きをするということはなかなか手間がかかりできませんでした。

 認知症になれば、身の回りのことが少しずつできなくなるので、母も歯磨きが十分にはできなくなってきていました。

 母がグループホームに入る1か月ほど前、2015年7月とその1週間後8月の二つのメモです。

2015年7月○日
・母の下の入れ歯が壊れたので、K歯科に行ってきた。

 初回を含めて最低6回の通院が必要。

 週一回のペースで。壊れた入れ歯は使えないので、修理ではなく新しいものを作る。

 歯の間に食べかすがたくさん付いている。

 自分できれいにするのは難しいだろうから、食後にぶくぶくうがいを付き添って母にさせるといい。

 前の下の歯の根がどうなっているかも調べておいた方がいい。

 一本ずつなら抜くのもそう難しくはないが、まとめて数本悪くなって腫れてくるとやっかいだとのこと。

2015年8月○日
・K歯科に行ってきた。

 新しく作る入れ歯の型を取った。

 実際は型の型かな。

 レントゲンも撮った。

 下の前歯が8本残っているように見えるがそうではない。

 自分の歯は4本で、あとの4本は義歯がつないであるらしい。

 だいぶんお金がかかっているだろうとのこと。

 歯の根の骨が溶けてなくなってきているのもあり、腫れてきたり痛くなってきたりするとやっかいらしい。

 食べかすが歯の間に随分残っていて、それが肺に入って肺炎を起こすという心配もある。

 うがい薬が出た。

 一日一回、20秒うがいをする。

 歯磨きもする。

 自分では難しいだろうから、付き添ってさせるのがいいと。

 自分でさせるとおそらく数秒のうがいになってしまう。

 薬を口に含んで、歯と歯の間に液を通すような感じでうがいするようにと。

・昨日はまた、足が冷たいからと湯たんぽを入れた。

 かかりつけのO医師からは湯たんぽはしないほうがいいと言われてはいるが、してやらないと何度も何度も「湯たんぽ」と言ってくるので、入れてやった。

 昨日は湯たんぽのお湯の沸かし方が分からないかのような感じで、「どうやってやるの」と言っていたから、お湯を沸かして湯たんぽにお湯を入れてやった。

 湯たんぽしてほしいとか、歯医者に連れて行ってほしい(今日行ってきたのに)とか、そういうのを繰り返し言われるのも辛いものだし、食べ物を残して捨てるから部屋が臭くなったり、風呂に入らないから体が臭くなったり、窓を閉めよう閉めようとするから部屋がむっとしたりカビが生えたり、もっと大変な介護もあるだろうが、介護経験のない人にはその大変さはなかなか実感しにくいだろうな、と思う。

第63回 認知症介護 独り言 家族への影響

 母をグループホームに入れることを本格的に考え出したのは、2015年の3月頃からでした。

 次女の夏子が高校2年生になるころです。

 深夜や早朝に激しい独り言を母が言うので、家族の睡眠に影響するようになっていたからです。

 もちろん、次女の受験勉強に影響することも心配しました。

2015年3月○日
・朝5:30、「○○ちゃん(三女秋子の名前)が『ばばあはおるか。男はおるか。』と大きい声で言っているから寝られない。毎晩毎晩おばあちゃんを騙して。○○ちゃんに聞いてきて。とにかく腹が立つわ。」と母が訴えてきた。

 こういう時は顔つきも変わっている。

 当然だが怒った顔つきになっている。

 三女の秋子や次女の夏子への影響を考えると、どこかに収容してもらった方がいいかもしれないと考え始めている。

 3月△日×日は、長女の春子の引っ越しと掃除のために家族で北陸に行ったので、兄に来てもらい母の面倒を見てもらった。

 母の面倒を見る大変さの一端を分かってもらえたようだ。

 数日前に、母の独り言を秋子がメモした。

 「男なんかいないよ。だれがどばあしてるの!ああ○○ちゃんいるよ。うどん食べとったよ、○○ちゃんは。そこへあんぱんいくか!ほんとにさそりますか!弁当箱なんてないよ。○○ちゃんもいないよ。おばあちゃんだけいるでね。何度も何度もだまして!修学旅行に行くか!○○ちゃんがいるよ。男がいるか。男がいるか。テレビつけれないよ。そんな電話は通じないわ!○○ちゃんがいるよ。○○ちゃんがね。男はいないよ。もう帰ったよ。おなかがすいて眠れません!」

 それから、最近はよくゴミ箱やらやかんのふたやらテーブルやら、色々なもので「トン、トン、トントン」または「トン、トン、トントントン」というリズムでたたく音がする。

 夏場になって窓を開けるようになったら、これもうっとうしがられるだろうと思う。

 知的障害のある子がよく同じリズムで同じことを言ったりしているのと同じような感じだ。

 何のリズムかは分からない。

 「第55回 認知症介護 『年より笑うな行く道だもの』」で書いたように、母が風呂場でうんこをしたことも、様々な独り言を言ったことも、決して笑ってはいけないと思っています。

 私自身、「私も将来同じことをするかもしれない」と思っています。

 誰にでも起きうることです。

 反対のことを言うようですが、誰にでもあることと笑い飛ばすくらいの気持ちで対処するという意味では、笑い飛ばすのも悪くないと思います。

第58回 認知症介護 夜中の激しい独り言

 「母親は男を作って家を出て行ってしまった。だからお母さんは、母親代わりとして妹たちの面倒をみることになった。」

 母からこう聞かされたのは、もちろん私が成人してからでした。

 戦争の影響もあり、母はつらい子ども時代を過ごしてきたようでした。

 認知症と診断されて4年程が経ち、母の独り言もだんだん激しくなってきました。

 断片的な記憶が混線しているような感じでした。

 現在のことも、自分が子どもだった頃のことも。

 私にはやはり笑って過ごすことができません。

 どうしても独り言に見え隠れする母の思いを想像せずにはいられないのです。

 特に子供の頃のつらい記憶がよみがえっていることをうかがわせる独り言を聞くと、私もつらくなってしまうのでした。

 2015年2月のメモです。

2015年2月○日

・昨日の昼間も今朝朝方の2時半頃も、おばあちゃんの独り言は結構激しかった。

 昨日は妻が書き取ったものがあるので、それをそのまま記しておく。

 「ばばあはいるか、男はいるか、」とずっと聞こえる。

 怒って答えている。

 「人をだまして ○○ちゃん(三女の名前)もいるよ。大きい車もあるよ、お父さんもいるよ。寝てないよ。10時半で時計が止まってるよ。こんなに明るいのに昼だろうか夜だろうか。もうすぐお昼だよ。お外で子どもが遊んでいるよ。○○ちゃん(三女の名前)もいるよ。お父さんもいるよ。大きい車もあるよ。黒い車もあるよ。今お嫁さんがね、夕飯済んだからもう寝てくださいって。もう寝てるよ。こんなに明るいのにね。みんな寝てるよ。もう昼だよ。男がほしいか。男がほしいか。ようやく静かになったか。おしろい付けて紅つけてどこ行くの。男がほしいか、男がほしいか。バカ。いちばん……(不明)だ、おばあちゃんは。」

 最後の方の「おしろい付けて紅つけて」の辺りは、子どものころの母親に対する気持ちが出てきているのだろうか。

 妻はあまり心配で、ケアマネージャーのNさんに電話したとのこと。