第87回 認知症介護 母を美容院へ 

 認知症になった母が家で過ごした最後の頃、最もお金をかけていたのは美容院でした。

 私たちが子供のころからいつも経済的には余裕がありませんでしたから、両親が一番お金をかけたのは、子どもたち(つまり私の兄弟)の食費だったと思います。

 「病気になってお金を病院に持っていくくらいなら、健康にいいものを食べることにお金を使わなくてはね」と母はよく言っていました。

 蛇足ですが、私と私の兄が自宅外の都会の私立大学に通うことになったので、両親は自分たちの保険を解約して、私たちの学費を工面してくれたのでした。

 もちろん、兄も私も奨学金を借りました。

 それで何とかしのげたのです。

 両親には感謝しても感謝しても感謝しきれません。

 そういう状況でしたから、母は衣装などにもあまりお金をかけていませんでした。

 ただ子どもたちが手を離れ、孫の面倒を見る頃になって、母は美容院にはそれなりにお金を使うようになりました。

 特に父が亡くなってからです。

 ですからほんの数年のことです。

 認知症が始まっていたことも関係するかもしれませんが、想像するに、美容師さんに勧められるがままに、パーマ液などにもいいものを使い、シャンプーもいいものを買っていたようです。

 母のお金がなくなった「事件」を少し探っていったことがありましたが、母がなくなったと思っていたお金は、美容院に払っていたようでした。

 1回につき約3万円。

 パーマやカット、カラーリングだけではなく、シャンプーか何かを買う代金も含めての金額ですが、妻は「庶民が一回の美容院で3万円なんて」と言っていたこともありました。

 グループホームに入る前までは、私が美容院まで母を送っていき、美容師さんにお願いして、終わったら私のケータイに電話をしてもらい、迎えに行って支払いをする、というようにお願いしていました。

 グループホームに入ってからは、グループホームのスタッフの方が、母を美容院まで連れて行ってくれました。

 終わると美容師さんが、スタッフさんに電話して迎えに来てもらい、支払いは私が後日する、という形にしてもらいました。

 グループホームの方には、本当によくしてもらっています。

 ありがたいことです。

 グループホームに入って1年か2年は、そのような形で、美容院に連れて行ってもらっていました。

 それも、いつからかグループホームに来てくれる理髪師にお願いするようになっていました。

 初めの頃に、その理髪師に頼むか、美容院に連れて行くかという相談はありましたが、1年か2年が経過し、何となく、自然に理髪師にしてもらうようになりました。

 それほど遠くない将来に、そうなるだろうことは予想もしていましたし、いつまで美容院に数万円かけるか、と私も考えていましたから。

 母がグループホームに入って、8カ月ほど経った2016年3月のメモです。

2016年3月○日

・母を以前行っていた美容院に連れて行ってもらった。

 グループホーム「S」の人に午後1時に連れて行ってもらい、4時ごろに迎えに行ってもらう。

 そしてそのあとに私が支払いに行く。

 以前は3万円近くしたが、内容を一部変更するようにお願いして2万円位になるようにしてもらっている。

 今はパーマとカットで11,000円、カラーが5,000円、シャンプーが500円、トリートメントが1,000円、合計17,500円の消費税で18,900円。

 前回は10月△日だった。

第57回 認知症介護 電気あんかはいいか

 母をグループホームに入れる決断をした大きな理由は二つでした。

 一つは、母が音を立てることが多くなり、家族の睡眠に影響するようになってきたこと。

 もう一つは、火事の心配が増えてきたことでした。

 そのあたりは、「第53回 認知症介護 ドンドン音をたてる」にも書きました。

 母は足が冷たいと訴え、しきりに湯たんぽを使いたがりました。

 母の部屋に行くとすごい湿気でした。

 ガスコンロでお湯を沸かすのです。

 母がやかんでお湯を沸かし、熱湯を湯たんぽにそそぐ。

 私が湯たんぽを触ってみると、まだ十分暖かいこともしばしばでした。

 20分か30分前にもお湯を沸かしているのです。

 火事の心配、母の火傷の心配が高いと感じました。

 そこでかかりつけのO医師に相談しました。

 O医師は、電気毛布や電気あんかを勧めてくれました。

 それで早速家電量販店に行き、電気毛布も電気あんかも買いました。

 火事になったり、火傷をしたりするよりは、安い物だと考えました。

 でも、結果からすると、電気毛布も電気あんかもそれほどよくはありませんでした。

 電気毛布について、私が心配していたのは四六時中つけっぱなしにすることでしたが、むしろ母はしょっちゅうスイッチを切っていました。

 電気毛布の暖かさが心地よくないのか、スイッチの消し忘れを気にして、しょっちゅう消していたのか分かりません。

 電気あんかも使い慣れたものではないので、母が自分から使うことはなかなかしませんでした。

 母がグループホームに入ったあと、どちらも処分しました。

 必要経費だったと思っています。

 2015年1月のメモです。

 母をグループホームに入れる決断をしかけている頃です。

2015年1月○日
・1週間ほど前におばあちゃんをOクリニックに連れて行った。

 1か月に一度の定期健診だ。

 幻聴が聞こえているかのような独り言が多くなってきたこと、不機嫌になることが多くなってきたこと、おかずにやたらしょうゆをかけたがること、一度お風呂で大便をしたこと等をメモ用紙に書いて伝えてきた。

 中でも湯たんぽのお湯や、髪をなでつけるお湯を頻繁に沸かすので、火事と火傷の心配があることも伝えた。

 電気毛布や電気あんかがいいと勧められたので、早速翌日に買いに行った。

 しかし、適切にスイッチを付けたり消したりが出来ないので、心配は尽きない。

 ずっとつけっぱなしを心配していたが、結構消している。

 あんかは自分からは使わない。

 新しいものだから使い方がよく分からないのだろう。

 説明しても分からない。

 それで、結局はお湯を沸かしているので、火の心配は変わらない。

 電気毛布を使い始めて、多少湯を沸かす回数が減ったかなという程度だ。

 ティファールを使ってくれれば危なくなくていいのだが、使えない。

 家が燃えてしまうリスクを考えると、もう施設に預けてしまうのがいいような気もしてくる。

 母は悲しむだろうから、なかなかその決断はできない。

第52回 認知症介護 ケータイ解約、生協の宅配脱退

 「認知症になっても何も分からなくなるわけではないし、何もできなくなるわけでもないし、できることはなるべく自分でさせるようにしよう」そう思っていました。

 今もそう思っています。

 買い物に行って同じものを買ってくるからといって、買い物の機会をなくしてしまうよりは、無駄になってしまったものを処分する。それも介護のための、母に少しでも機嫌よく過ごしてもらうための必要経費のように考えていました。

 今もそう考えています。

 それでもどこかでやめる判断をする時がきます。

 まず、携帯電話の解約でした。

 認知症初期の頃は、母も携帯電話を使うことはできました。

 メールなどはできないにしても、電話をかける、かかってきた電話に出る、といったことはできました。

 出かけるときには携帯電話を持っていく、ということもだいたいはできていました。

 しかし、それも徐々にできなくなり、電話がかけられないことにいら立つようなことも増えてきました。

 それでケータイは解約することにしました。

 違約金がかからない月まで待とうかとも考えましたが、違約金がかかってもすぐに解約したほうが安上がりだと判断し、解約しました。

 できなくなってきていたとはいえ、母のできることを一つ取り上げるようで、少し心が傷みました。

 生協の宅配も脱退しました。

 まだある物を注文するようなことが増え、冷蔵庫の中が臭くなってしまうことも増えてきました。

 ここでも、母のできることを一つ取り上げるようで心が傷みましたが、必要経費とは考えられなくなってきていました。

 時々母と一緒に買い物に出かけるようにはしましたが。

 そんな頃、2014年12月のメモです。

2014年12月○日

・11月○日に母のケータイを解約してきた。

 違約金で10000円ほどかかるが、かからないのは1年半後くらいなので、このまま使わずにいくよりは出費が少ないと判断して解約した。

 同日、生協も脱退の手続き(必要書類を郵送)をした。

 必要経費と思って続けるまでもないと考えた。

 食欲は旺盛だが、足を痛そうにしていることは多い。

 昨日は、約1か月ぶりに洗髪した。

 「頭洗おうか」と声をかけても「洗わない」と言って、なかなか洗ってくれない。

 数日前には玄関に置いてある母の靴がなくなっていて、「まさか出かけたか」と慌てたが、部屋にいた。

 靴は二三日後に玄関にもどっていた。

 靴は戻っていたが、昨日財布がないのに気付いた。

 財布の中には保険証も入っている。

 今、母が来て「秋子ちゃん、いる?」と聞いてきた。

 秋子はおばあちゃんの部屋でテレビを見ていた。

 行くと「おばあちゃんが怒ってきた」と秋子は言う。

 おばあちゃんは「おってもいいよ」と怒った口調で言い、戸をぴしゃりと閉めて寝室に入っていった。

 今しゃっくりをしている。

 しゃっくりをしたり、どんどん足を鳴らしたり(これはただ足を引きずって歩いているだけかもしれないが)、ぴしゃりと戸を閉めたりするときは、機嫌が悪いようだ。

 なぜかは分からない。

 妻がお風呂に入った頃も、機嫌は悪かったらしい。

 「話しかけても振り向きもしないし」と妻は言っていた。

 7月頃ほど悪くはないが、しゃっくりしたり、機嫌が悪かったりすることも少し増えてきた感じがする。